喫茶店の蟹

駅前の喫茶店

 

そう、喫煙者のオアシスのあの喫茶店

 

私は週の半分以上はここに来る。

 

気に入りの店には、やはり、気に入りの席というものがあると思う。

 

食券制で自由席。

 

私は、店内後方のソファの席がどこか空いていればそこを陣取る。

 

ラッキーなことに私が来店するときには、

 

一席も空いていないことがほとんどない様に思う。

 

しかし昨今はやはり、どの店の営業には徹底した換気が必須であるので、

 

なので店内は平時よりも少し肌寒い。

 

私は冬だろうと厚着をしない。

 

コートを脱げば、シャツ一枚な毎日だ。

 

奥のソファ席といえど、やはり入り口から離れた席の方が暖かい。

 

私は、右隣、奥側の席が空いたら、隣にずれる。

 

じりじりと、奥に侵行していく。

 

今日、初めに陣取ったのはソファ席の、

 

一番入り口側の席だ。

 

私は作業しながら隣を伺っていた。

 

順調に隣の席は一つずつ、空いていく。

 

私は一席ずつ右にずれる。

 

二杯目のコーヒーを頼む頃には、

 

私は中央に近い席にいた。

 

そして、隣の三人組の客が退店し、

 

私は一つ飛ばしで右に進むことができた。

 

あと残すところ、一席。

 

私は三杯目のコーヒーを頼みながらそこで、

 

ここの店員が客にニックネームをつける類の店員だったらどうしよう、

 

と、ふと不安に駆られた。

 

私はここに来るたび、ほぼ毎回こんなことをしている。

 

一歩ずつ横にずれる。

 

正に蟹だ。

 

「あ、おい、蟹が今日も来たぞ」

 

そんなふうにスタッフ間で囁き合われていたらどうしよう。

 

と、そんなことを考えたとき、

 

ようやく、一番奥の席に辿り着いた。

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