forget-me-not

私は最近、物忘れがひどい。

 

いつからだろうと思い返す。

ぬるい地獄で過ごした数年間のうちにそうさせてしまったのだろう。

集中力と記憶力がごっそりいかれてしまった。

 

どうしてここに来たんだっけ、

と立ち尽くしてしまうこともしばしば。

 

だから創作のネタなどはすぐにメモするのだが。

どうも日常のあれこれをメモしまくっていたら、膨大な量になってしまいそうなので、難しい。

 

忘れ物を思い出し、玄関と自室を何往復かの毎日。

結局家を出てから、新たに忘れ物を思い出す始末。

愛着を持っているものですら、忘れてしまう。

そして、出先で悲しくなってしまう。

 

なので、常備薬はコートのポッケにしまい、

毎日同じものを着る。

薬に愛着などかけらもないのだけど。

おかげで右ポッケがが鋭利にガチャガチャしている始末だ。

 

ばあちゃんが成人祝いで買ってくれた機械時計は、

ネジを回して動かせば、

あとは歩行時の振動などで勝手に動き続けてくれるのだが、

二日位着用を忘れるとすぐに止まってしまう。

 

時刻を合わせながら、亡くなったじいちゃんの部屋で、

私の花たちを眺めながら煙草を吸っていると、

今日が通院日でそのときすでに診察時間だと気づいた。

 

電話した。

 

 

最近、勿忘草を育て始めた。

 

私がいつまでもビルの向こうの空を探しているときに、

君が名前を教えてくれた小さな、あの花だ。

 

花言葉は”私を忘れないで”

 

呑気に煙草を吸っている私を、

「いや、お前が忘れるんかい」という顔で見ている。

 

いや、物忘れをしない様に願いを込めて育てているんだよ。

 

そういうことにしよう。

 

 

忘れたいのに忘れられないことは多い。

それはなかなか忘れられないのに、

覚えておきたいことこそ忘れてしまう。

 

嫌な記憶こそストレージを占領してしまうようだ。

 

そんなことを考えていると、ふと、

顔面に違和感を感じ、目の当たりを触る。

 

あれ、眼鏡がない。

私はバッグをごそごそし始めて思い出した。

 

私は生まれてこの方視力は優良。

 

私、普段から眼鏡なんてかけてなかったや。

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