口に出して言葉にしたら、疎まれる。
それが疎ましい。
だから文章にしてここに残した。
それを見て見てーってやっているんだから、
結局のところ同じなんだった。
だから私は、
「体調が悪ーい」「気分が悪ーい」
声に出した。
痛いの痛いの、飛んでいけ。
少しでいいから、飛んでいけ。
酒を飲んだ。大好きな酒を。
久しく飲んでいなかったから、
食事の前に、梅酒を飲んだ。
甘かった。
食事と一緒にビールとウイスキーを飲んだ。
気がついたら三割ほど残した酒瓶を枕にしていて、
トイレに行きたくなった。
冷たい便器と熱い抱擁を交わした。
胃袋が全部ひっくり返った。
私もそのままひっくり返った。
頭を打った。
おかえり、って聞こえた。
優しい声で。
外は雨が降っていて、
トイレは狭い。
だけど、どこよりも広い空を見ていた。
私に一番近い、
それなのに、どこよりも遠くて、広い空。
やっと何もない部屋を出ると、何もかもが大きかった。
私は小さくなっていた。
顔面の生えっぱなしの柔らかい毛
食べたいものがないから気にならなかったいくつかの口内炎
顎周りに増えたニキビ
絡まった髪の先は裂けていて、
奥歯が痛いよって呟いている。
電池の切れた体重計
ネジを巻いてないから止まった機械時計
窓辺に置いたままのストレリチアの苗と
部屋には三つの灰の山が出来上がっていて
カーテンを開けるとデルフィニウムの花弁が、数輪、少し萎れていた。
耳を塞いできた、命が心を呼ぶ声。
寂しいはずなのに、悲しいはずなのに、
誰とも会いたくない。話したくない。
そんな夜は当たり前なのに慣れない。
だけど、
カラスが鳴いた。気がする。
はいよ、今起きるから待ってて。