片目を瞑って視る世界

夜は静かで、暗く、不安で孤独だ。

 

私の片眸には、声をあげても誰にも届かない世界が映る。

 

その左目に映る世界は酷く寂しく有機的温度を感じることができない世界。

 

感じるのは、押し付けた胸が不規則に床に打ち付ける振動。

 

だだっ広いフロアにバスドラムの圧だけが轟いている。

 

音響も照明も引き上げたステージ。

 

たまに間違えるリズムを誰にも聴かせることもなくただ一人で轟かせている空間。

 

窓には月だけが私とは無関係に輝いている。

 

この左目で視る世界では全てが無関係。

 

狭い部屋の小さなベッドが私には途方もなく広い世界。

 

無関係。無縁。どこにもつながれない閉じ込められた空間。

 

錯覚。

 

左目を閉じ、右目を開けば、そのすべての意味がひっくり返り、

 

両目を閉じれば世界そのものがひっくり返る。

 

ひっくり返った世界では、私の意志は通用しない。

 

 

無意識に両目を開いて生活している者にとっては

 

片目だけでは遠近感が掴みづらい。

 

私にとっては両方の目玉が必要らしい。

 

私には、両の眼をしかと開き、そこに映るありのままの世界を歩める時が、いつか訪れるのだろうか。